ポスト・ユビキタス社会への提言(1−下)
環境、健康分野の規制を強化することが、
人間本位のユビキタス社会実現の原動力になる
MM総研所長 中島 洋氏
[2007/03/09]
ユビキタス社会にむけた新しいビジネスの萌芽が生まれはじめている。
MM総研 中島洋氏は、高度なネットワーク・インフラが、経営の「リアルタイム化」と「見える化」を推し進めることになるだろうと予測する。また、ユビキタス社会における新しいビジネス機会やベンチャービジネスを創出していくためには、ネットワーク・インフラの自由、公平な活用と水平連携が不可欠と強調する。
前回に引き続き、MM総研 中島 洋所長に、ユビキタス社会におけるビジネスモデルの可能性について聞いた。
問:ユビキタス・ネットワークが整備されると、そのネットワークをベースに様々な新しいビジネスの可能性が生まれてきます。どんなところにビジネスチャンスが見えてくるでしょうか
既に新しいビジネスの萌芽は、あちらこちらで見え始めていると思います。
私が今、注目しているのは、ユビキタス・ネットワークを活用したビジネスプロセスの改革です。最先端の情報技術を活用した経営手法「BAM:ビジネス・アクティビティ・モニタリング(Business Activity Monitoring)」に対する関心が欧米を中心に高まっています。これまでもBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)やBI(ビジネス・インテリジェンス)ツールを活用した経営分析や経営改善手法が試されてきたわけですが、近年になって、企業経営に大きな要請として突きつけられているのが、「コンプライアンス」と「リアルタイム経営」です。
最近の不二家のケースにも見られるように、製造段階のひとつのプロセスで生じた問題が、あっという間に波及、増幅されて、事業継続そのものが危うくなるというリスクが生まれてきています。製造現場の末端で実行されている業務プロセスや社員が取引先に対してどんな行動をとっているか、いちいちチェックできるわけではないので、不二家のケースを見て、他の企業の経営者たちは、たぶん震撼させられたことでしょう。しかし、これは仕方ないことなんですね。これからの経営は、「コンプライアンス」と「リアルタイム経営」、言い換えると、「経営の見える化」を徹底しないと社会的要請に応えられない。
ユビキタス・ネットワークの利点は、シームレスなネットワーク・インフラとなるために、意識しないでモニタリングが可能になるということです。牛肉のトレーサビリティについて考えたのと同様に、ひとたび問題が生じた場合に、その問題が生じたルートを特定し、対応策を講じることができるというのが、経営上の最大のメリットになります。個々の社員、業務プロセスにアドレスを持たせて、モニタリングするというと、「監視社会」や「ビッグブラザー」の到来を懸念する声が上がってきますが、人が人をモニター(監視)するのではないという点が重要です。
わかりやすい例をあげましょう。例えば、Suicaの定期カードを持って、改札を通過する人は、全てその行動がモニターされていますが、そのことは意識されません。
もし、Suicaの定期券を持っている人がキセル乗車をしようと企んでも、自動改札が、経路異常だと認識して、シャットアウトしてしまいます。昔だったら、駅員が飛んできて、犯罪者呼ばわりされたことでしょう。そうなる前に、利用者に「気づき」を与えるという点で、ユビキタス・ネットワークは、人間本位であるといえるのです。
問:ユビキタス・ネットワークをビジネスのインフラとして捉えた場合、新しいビジネス機会やベンチャービジネスが生まれてこないでしょうか。
さまざまなビジネスチャンスが生まれてくると思いますよ。ユビキタス・ネットワークを構築することは、単に世の中が便利になるということを意味するのだけではなくて、それによって、産業創生をめざすということが、もともとu-Japan(ユビキタス・ジャパン)の考え方に含まれています。
ネットワーク・インフラを自由、公平に活用できる環境を
特に、ベンチャービジネスを育てていくためには、ネットワーク・インフラを様々な事業者が自由、公平に利用できる環境づくりが必要となります。様々な発想や、事業者同士の連携によって新しいビジネスが創生される、水平分業モデルというのが、ひとつのイメージになるでしょう。
情報家電のことを考えてみましょう。ゲーム機のように、もともとネットワーク機能を搭載しているものもありますが、洗濯機のような家電がネットワーク機能を持つというのが、ユビキタス時代の新しい家電イメージになります。例えば、この洗濯機に通信用のSIMと水質の汚れを感知するセンサーが搭載されたら、どんな可能性があるでしょうか。
6年前に洗剤を使わない、超音波洗濯機という製品が売り出されたことがありました。残念ながら、あまりヒットしなかったようですが、この洗濯機に通信機能を持ったSIMとセンサーが搭載されたら、どうなるでしょう。購入された数万台の超音波洗濯機から日々、膨大なデータが送られてきて、どんな洗濯物を、どのように洗濯すれば一番キレイになるのかについて、最適解が提供できるようになるかも知れません。
ベンチャー企業が、巨大な投資を必要とするユビキタス時代のネットワークのインフラビジネスそのものに参入することは困難ですが、こうしたネットワーク・インフラを活用したアプリケーション・ビジネスを手がけることには、大きな可能性があると思います。
逆にいえば、ユビキタス・ネットワークの価値を上げていくためには、ベンチャー企業を呼び込み、どんどん新しいビジネスを起こすことのできる、創発的なプラットフォームにしていく必要があるのです。
問:ユビキタス社会実現に向けて提言を
これまでに述べてきたように、ユビキタス社会のネットワーク・インフラを考える時には、
1.性能・スピード競争だけでなく、電波資産の効率活用を考える視点を持つべきであり、
2.ネットワーク・インフラを自由、公平に活用、水平連携できる環境づくりを進め、創発型のビジネスプラットフォームをめざせ
という提言に加えて、あえて申し上げたいのは次の点です。
3.環境、暮らし・健康分野の規制は逆に強化せよ
この3番目の提言については、意外に思われるかも知れませんが、ユビキタス社会の実現を加速するには、不可欠なことだと考えています。というのも、ユビキタスが人間の社会にもたらすのは、単に「情報化」ということではなくて、情報化をベースにしたより人間本位の社会となるべきと考えるからです。
牛肉のトレーサビリティーで見たように、ICTの活用によって、食の安全を担保する仕組みというものが実現可能な時代になりました。食の安全・安心といった国民生活にとって基本的な価値観に対応する問題については、どんどん規制を強化して、農産物のトレーサビリティーを確立するような方向に仕向けていくことが必要なんです。それが、結果として新しいビジネスチャンスの創出にも繋がっていくはずです。
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