スマートユビキタスフォーラム





ポスト・ユビキタス社会への提言(1−上)
技術のスペック競争だけでなく、
ネットワーク資産の効率活用の視点を持て

MM総研所長 中島 洋氏
[2007/03/07]

MM総研所長 中島 洋氏
中島 洋氏(MM総研所長)
 73年日本経済新聞社入社。1988年から編集委員。この間、日経マグロウヒル社に出向し、日経コンピュータ、日経パソコンの創刊に参加。慶応義塾大学教授などを経て、現在、日経BP社編集委員、MM総研所長、国際大学(グローコム)主幹研究員などを兼務。著書『デジタル情報クライシス』(日経BP企画)、『マルチメディア・ビジネス』(ちくま新書)など多数。

 ユビキタス・ネットワークをベースにした「ユビキタス社会」の実現が、現実性をもって語られるようになってきた。高速、大容量のデータ通信を可能にする次世代無線技術や第4世代のケータイの実用化も日程にのぼり、ユビキタスをめぐる議論は、夢やビジョンを語ることから、現実の諸問題を解決したり、そのための具体的な方法論を検討する段階に移行しつつある。本シリーズでは、ユビキタス社会実現のための具体的な提言を各方面の専門家、識者から寄せてもらう。
 第一回では、MM総研中島 洋氏に、ユビキタス社会におけるネットワーク・インフラのありかたや今後のビジネスモデルの可能性について聞いた。


問:ユビキタス社会を根底でささえるネットワーク・インフラの整備が着実に進みつつあります。今後、ユビキタス・ネットワークはどのように進展していくのでしょうか

 ユビキタス社会のインフラとなる高速・大容量の通信ネットワークが急速に整備されています。固定通信の分野では、光通信のインフラが急速に普及していますし、無線分野では劇的な技術革新が進んでいます。
 有名なムーアの法則によれば、PCの性能は10年で100倍になるといわれ、実際その通りになりました。通信の世界の進化はもっとドラスティックです。こちらではビル・ジョーイの法則というのがあって、10年で1,000倍になるといわれています。つまり、これまで通信コストに1,000円かかっていたとすれば、それが、1円になってしまうことを意味します。さらに踏み込んでいえば、ユビキタス社会におけるネットワークの生産性は、端末と通信インフラの性能の掛け算で表現されますから、この10年の変化は、100倍×1,000倍、すなわち10万倍の進歩の可能性があるということなのです。

電波帯域の効率活用に適したPHSのマイクロセル方式
 ひとつ例をあげましょう。日本発の通信技術にPHSがあります。PHSというと、安価な携帯電話の技術としか認識していない人も多いのですが、研究開発が着実に進められ、現在、20Mbpsという高速の伝送能力を持つ、次世代PHS技術の実証実験が進行中です。
 PHSの速度は、サービス開始時の伝送速度は、34kだったことと比較すれば、驚くべき進化です。
 慶応義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)で教鞭をとっていた頃、PHS技術の開発者であった小檜山教授の研究室が私の隣にあって、PHSの技術的なポテンシャルについて議論したことがありました。PHSの場合、数10m〜数100m毎にきめ細かく基地局を設置するマイクロセル方式を採用しています。当時、小檜山教授は、PHSの細かなネットワークを利用して位置確認を行う技術の研究をされていましたが、マイクロセル方式には、もうひとつ重要な利点があります。それは、ひとつの基地局がカバーする範囲(セル)が狭く、そのセルの同士で高密度に電波の多重再利用ができるという点です。ユビキタス・ネットワークの時代になると、ケータイだけでなく、様々な情報機器が同時に電波帯域を利用するようになります。電波の多重利用とトラフィックの分散という観点から、PHSは大変重要な技術だと考えられました。電波周波数は、その帯域を国が管理している、限られたリソースであり、この効率活用が原理的に可能なPHSは、電波の高度活用が求められるユビキタス時代に適した技術といえます。
 政府は2010年までにユビキタス社会実現に必要なネットワークインフラを整備すると宣言していますが、今年は、その実現に向けた具体的な取り組みが始動していくことになります。次世代(4G)の携帯電話はもちろんのこと、WiMAXのような高速無線LANの実用化も進められ、無線通信分野では様々な技術がしのぎを削るという状況になっています。伝送速度など技術スペックの競争だけに目を奪われるのではなく、電波という公共財を有効に利用していくという視点を持つことが大切です。

PHSの特徴:マイクロセルネットワーク

ユビキタス社会のインフラとして普及が求められるIPv6
 ユビキタス時代のインフラとしてIPv6の普及も重要な課題でしょう。ユビキタス・ネットワークでは、人とネットだけでなく、人とモノ、モノとモノなど、全てが繋がっていきます。その際に必要となるのが、人やモノのアドレス。わざわざIPv6を採用しなくても、現在のIPv4を改良していけば事足りるという議論をする人も存在しましたが、全てのものにアドレスが付与されるユビキタス社会を前提にした時、無尽蔵なアドレスを作ることが不可欠で、今ではIPv6への移行は不可避であると考えられるようになりました。
 全てのものが繋がっていくと、どんな良いことがあるのか。
 例えば、牛肉のトレーサビリティを例にとると、牧場で飼育される牛の一頭一頭にアドレスが付けられ、その成育過程をモニタリングすることが可能になります。天候や餌のやり方など、飼育条件の履歴データが収集できることで、農家にとっては生産性を向上させるためのデータを得ることができるでしょう。次に流通段階では、食肉に処理された、それぞれの部位肉ごとにアドレスが付されることになります。これによって消費者は、店頭で表示された食肉パックのアドレスから、その肉が、どこの牧場でどのような飼育状態を経て提供されたものかが、わかるようになります。万が一BSEが発生した場合、その牛と同じ条件で飼育された牛を全て洗い出し、その牛から加工された食肉を流通ルートまで辿って全て回収することができるでしょう。このように、ユビキタス技術を使って、農産物のトレーサビリティを担保することは、生産条件などを照会できることで、安全・安心な食べ物を手に入れられることを意味するだけでなく、何らかの問題が生じた場合、瑕疵のあった製品を特定し、同じ条件下で製造された商品を排除すれば、他のものは安全であると宣言できるということも意味しているのです。


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